大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成8年(行ケ)98号 判決

京都府京都市中京区西ノ京桑原町1番地

原告

株式会社島津製作所

代表者代表取締役

藤原菊男

訴訟代理人弁理士

西岡義明

喜多俊文

江口裕之

東京都千代田区霞が関3丁目3番4号

被告

特許庁長官

荒井寿光

指定代理人

村田尚英

志村博

吉村宅衛

吉野日出夫

主文

1  特許庁が平成5年審判第19466号事件について平成8年3月18日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者が求める裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成元年9月29日、名称を「粒度分布測定装置」とする発明(以下、「本願発明」という。)について特許出願(平成1年特許願第256161号)をし、平成5年9月7日に拒絶査定がなされたので、同年10月6日に査定不服の審判を請求し、平成5年審判第19466号事件として審理された結果、平成6年6月8日に特許出願公告(平成6年特許出願公告第43950号)がなされたが、特許異議の申立てがあり、平成8年3月18日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同年5月13日原告に送達された。

2  本願発明の要旨(別紙図面A参照)

分散飛翔状態の粒子群に平行光束を照射することによって得られる、粒子群による回析/散乱光の強度分布を測定することによって、粒子群の粒度分布を測定する装置において、粒子群による回析/散乱光の内、前方所定角度以下の回析/散乱光を集光するレンズと、そのレンズによって集光された回析/散乱光の強度分布を検出するアレイセンサと、粒子群による散乱光の内、上記角度を越える前方散乱光、側方散乱光および後方散乱光のいずれかを入射してその強度を検出する1個もしくは複数の光センサと、上記アレイセンサおよび上記光センサの出力のデジタル変換データを採り込んで、その各データを統一的な散乱光強度分布ベクトルの成分として用い、そのデータから、散乱光強度分布ベクトルを粒度分布ベクトルに変換するためのあらかじめ設定されている変換係数行列を用いた演算により、粒子群の粒度分布を一挙に算出する演算手段を備えたことを特徴とする粒度分布測定装置

3  審決の理由の要点

(1)本願発明の要旨は、その特許請求の範囲に記載された前項のとおりのものと認める。

(2)これに対し、「島津評論」第45巻第1・2号(島津評論編集部昭和63年6月15日発行)の77頁ないし84頁(以下、「引用例」という。)には、

「フローセル中の粒子群に平行光束を照射することによって得られる、粒子群による回析/散乱光の強度分布を測定することによって、粒子群の粒度分布を測定する装置において、粒子群による回析/散乱光の内、前方所定角度以下の回析/散乱光を集光するレンズと、そのレンズによって集光された回析/散乱光の強度分布を検出する複数の素子から成るリングデテクタと、粒子群による散乱光の内、側方散乱光を2方向で測定するデテクタと、上記リングデテクタの出力と側方散乱光用のデテクタの出力をデジタルデータに変換するA/D変換器と、リングデテクタの各素子のデータを統一的な散乱光強度分布ベクトルの成分として用い、そのデータから、散乱光強度分布ベクトルを粒度分布ベクトルに変化するためのあらかじめ設定されている変換係数行列を用いた演算により大径粒子の粒度分布を一挙に算出し、その算出した粒度分布と側方散乱光用のデテクタのデータから算出した特定区間の小径粒子の量を統合して全体の粒度分布を求める演算手段を備えた粒度分布測定装置」

に関わる技術的事項が記載されている(特に、78頁右欄20行ないし80頁右欄1行。別紙図面B参照)。

(3)本願発明と引用例記載の技術的事項とを対比して検討するに、本願発明の「分散飛翔状態の粒子群、アレイセンサ、粒子群による散乱光の内、上記角度を越える前方散乱光、側方散乱光および後方散乱光のいずれかを入射してその強度を検出する1個もしくは複数の光センサ」は、それぞれ、引用例記載の「フローセル中の粒子群、リングデテクタ、粒子群による散乱光の内、側方散乱光を2方向で測定するデテクタ」に相当するから、引用例には、本願発明の

「分散飛翔状態の粒子群に平行光束を照射することによって得られる、粒子群による回析/散乱光の強度分布を測定することによって、粒子群の粒度分布を測定する装置において、粒子群による回析/散乱光の内、前方所定角度以下の回析/散乱光を集光するレンズと、そのレンズによって集光された回析/散乱光の強度分布を検出するアレイセンサと、粒子群による散乱光の内、上記角度を越える前方散乱光、側方散乱光および後方散乱光のいずれかを入射してその強度を検出する1個もしくは複数の光センサと、上記アレイセンサおよび上記光センサの出力のデジタル変換データを採り込んで、粒子群の粒度分布を算出する演算手段を備えた粒度分布測定装置」

に相当する構成が開示されており、両者はこの点において一致する。

しかしながら、本願発明が、演算手段において、アレイセンサおよび光センサの出力の各データを統一的な散乱光強度分布ベクトルの成分として用い、そのデータから、散乱光強度分布ベクトルを粒度分布ベクトルに変換するためのあらかじめ設定されている変換係数行列を用いた演算により、粒子群の粒度分布を一挙に算出するのに対し、引用例記載の技術は、演算手段において、リングデテクタの各素子のデータを統一的な散乱光強度分布ベクトルの成分として用い、そのデータから、散乱光強度分布ベクトルを粒度分布ベクトルに変換するためのあらかじめ設定されている変換係数行列を用いた演算により大径粒子の粒度分布を一挙に算出し、その算出した粒度分布と側方散乱光用のデテクタのデータから算出した特定区間の小径粒子の量を統合して全体の粒度分布を求めており、この点において両者は相違する。

(4)相違点について検討するに、引用例記載の技術において、リングデテクタの散乱光強度分布ベクトルを大径粒子の粒度分布ベクトルに変換するため変換係数行列を用いて演算するのは、リングデテクタの各素子の出力が大径の各粒度の粒子から影響を受けるからである。そして、大径粒子の粒度分布と特定区間の小径粒子の量を別々に演算するのは、大径粒子が側方散乱光用のデテクタの出力に影響せず、また、特定区間の小径粒子が前方所定角以下の回析/散乱光を検出するリングデテクタの出力に影響しないためであると認められる。

ここで、前方所定角度の制限を受けず、広く前方散乱光の強度を検出するようにセンサを設置することは周知であり(例えば、明細書に従来技術として記載されている事項、または、昭和59年特許出願公開第174737号公報(以下、「周知例」という。)を参照)、また、前方所定角度を越えても同角度に近い散乱光の強度を検出するセンサの出力は、大径粒子に連続する小径粒子と大径粒子の両方から影響を受けることは明らかである。

以上のことを踏まえれば、粒度分布を広範囲で正確に求めるために、前方所定角度を越える散乱光を検出するセンサの出力を、散乱光強度ベクトルに次元を増やして組み込み、それに応じて粒度分布ベクトルおよび変換係数行列を設定することは格別困難ではない。すなわち、相違点に係る本願発明の構成のように、演算手段において、アレイセンサおよび光センサの出力の各データを統一的な散乱光強度分布ベクトルの成分として用い、そのデータから、散乱光強度分布ベクトルを粒度分布ベクトルに変換するためのあらかじめ設定されている変換係数行列を用いた演算により、粒子群の粒度分布を一挙に算出することは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、その要旨とする構成による本願発明の効果も、引用例記載の技術的事項から予測し得た程度のものであって、格別のものとは認められない。

(5)以上のとおり、本願発明は、引用例記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

引用例に審決認定の技術的事項が記載されており、本願発明と引用例記載の技術的事項が審決認定の一致点及び相違点を有することは認める。しかしながら、審決は、相違点の判断を誤った結果、本願発明の進歩性を否定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)審決は、相違点に係る本願発明の構成が想到容易であったことの論拠として、

a 引用例記載の技術において、リングデテクタ(以下、「アレイセンサ」という。)の散乱光強度分布ベクトルを大径粒子の粒度分布ベクトルに変換するため変換係数行列を用いて演算するのは、アレイセンサの各素子の出力が大径の各粒度の粒子から影響を受けるからであること(以下、「論拠a」という。)

b 引用例記載の技術において、大径粒子の粒度分布と特定区間の小径粒子の量を別々に演算するのは、大径粒子が側方散乱光用のデテクタ(以下、「光センサ」という。)の出力に影響せず、また、特定区間の小径粒子が前方所定角以下の回析/散乱光(以下、「散乱光」という。)を検出するアレイセンサの出力に影響しないためであること(以下、「論拠b」という。)

c 前方所定角度の制限を受けず、広く前方散乱光の強度を検出するようにセンサを設置することは周知であること(以下、「論拠c」という。)

d 前方所定角度を越えても同角度に近い散乱光の強度を検出するセンサの出力は、大径粒子に連続する小径粒子と大径粒子の両方から影響を受けることは明らかであること(以下、「論拠d」という。)

の4点を挙げている。

しかしながら、これらの論拠のうち、論拠b及びdは誤りである(論拠a及びcは、論拠cにおいて周知例を援用している点を除き、誤りではない。)。

(2)論拠bの誤り

引用例が刊行された当時、当業者が「大径粒子が側方散乱光用の光センサの出力に影響せず、また、特定区間の小径粒子が前方所定角以下の散乱光を検出するアレイセンサの出力に影響しない」旨の認識を有していたことは事実である。

しかしながら、引用例記載の技術において大径粒子の粒度分布と小径粒子の量を別々に演算しているのは、前者の粒度分布測定法と後者の粒子量測定法が異なる測定原理に基づくことによるのであって、「大軽粒子が側方散乱光用の光センサの出力に影響せず、また、特定区間の小径粒子が前方所定角以下の散乱光を検出するアレイセンサの出力に影響しない」からではない。

すなわち、大径粒子の散乱光は前方微小角付近において激しく変動するため、その測定には、センサ素子が連続的に配列されたアレイセンサを用いる「前方微小角散乱法」が採用される。そして、アレイセンサによって検出される散乱光は連続性を有するので、この散乱光強度分布と粒度分布との関係は引用例78頁右欄の理論積分式(7)で表され、これを離散化したものが同欄の式(10)である(別紙「粒度分布の算出」参照)。

これに対し、サブミクロン単位の小径粒子は、スポット光を検出する光センサを用いた「サブミクロン粒子の測定法」によって測定される。そして、光センサによって検出される散乱光は連続性を有しないため、上記式(7)ないし(10)とは別個の理論により、粒子量を算出するのである(電気学会応用・視覚研究会資料 VOL.LAV-85,NO.6-12PAGE.51-57,1985(甲第6号証)には、非連続の散乱光から小径粒子の粒子量を求める手法が開示されている。)。

そして、「前方微小角散乱法」を利用する粒度分布測定装置は専用装置として従来から存在し、一方、「サブミクロン粒子の測定法」を利用する粒子径測定装置も専用装置として従来から存在していた。引用例記載の図4は、「前方微小角散乱法」を利用する粒度分布測定装置夕ベースとし、これでは測定できないサブミクロン単位の小径粒子を測定するため、「大径粒子が側方散乱光用の光センサの出力に影響せず、また、特定区間の小径粒子が前方所定角以下の散乱光を検出するアレイセンサの出力に影響しない」との認識の下に、「サブミクロン粒子の測定法」を利用する側方散乱光検出器を組み合わせたものである。したがって、前者の出力データに基づく大径粒子の粒度分布の演算と、後者の出力データに基づく小径粒子の粒子量の演算とが別々に行われるのは当然のことであり、前記認識は両理論を用いた装置の組合わせが可能かどうかを決める程度の理由にしかならない。

そもそも、アレイセンサの出力データから求められるのが「粒度分布」であるのに対し、光センサの出力データから求められるのは「粒子量」であって、両者が同一次元の演算手法によって処理し得ないことはいうまでもないから、論拠bは大径粒子の粒度分布と特定区間の小径粒子の量の測定を同一次元の演算方法であると誤認するものであって、このことからも論拠bが誤りであることは明らかである。

(3)論拠dの誤り

周知例の第2図に記載されているように、大径粒子の散乱光が「散乱角が小さい範囲」(本願発明が要旨とする「前方所定角度」)において大きく変動し、小径粒子の散乱光が「散乱角が大きい範囲」において緩やかに変動することは本出願前に公知であったが、「散乱角が小さい範囲」から「散乱角が大きい範囲」へ移行する過程の散乱角におる散乱光の挙動は、本出願前には明らかにされておらず、かつ、大径粒子と小径粒子とではその散乱光の強度に顕著な差が生ずる。したがって、論拠dがいうように、大径粒子の散乱光と小径粒子の散乱光の両方から影響を受ける散乱角があることは、本出願前には当業者においても認識されていなかった。現に、周知例記載の発明においても、両粒子の影響を考慮することなく「散乱角が小さい範囲」で検出されたデータと「散乱角が大きい範囲」で検出されたデータを別個に処理しているのであって、論拠dが誤りであることは明らかである。

(4)相違点に係る本願発明の構成の進歩性

本願発明は、当業者のそれまでの認識に反して、大径粒子の散乱光が光センサの出力にも影響を与え、小径粒子の散乱光がアレイセンサの出力にも影響を与えること、及び、センサ素子が連続的に配列されているアレイセンサの検出データと、センサ素子に連続性のない光センサの検出データを統一的な散乱光強度分布ベクトルとして取り扱い得ることを見出だして創作されたものである。

すなわち、原告作成の実験データを示す甲第9号証によれば、大径粒子の散乱光がアレイセンサ及び光センサ双方の出力に影響を与えることが、同じく甲第10号証によれば、サブミクロン単位の小径粒子の散乱光もアレイセンサ及び光センサ双方の出力に影響を与えることが明らかである。そこで、本願発明は、アレイセンサの出力データを連続性を有しないものとみなして、光センサの出力データと同等に取り扱うこと、すなわち、引用例記載の前記式(10)に光センサの出力データをも組み込むとの着想に基づいて創作されたのであるが、このような着想は引用例には示唆すらされていない。

この点について、被告は、アレイセンサはセンサ素子が連続的に配置されているのに対し、光センサはセンサ素子の連続性を欠くものであるが、ここにいう連続・非連続は単にセンサ素子の配置が物理的に密であるか粗であるかの差異にすぎず、粒度分布測定の原理上の差異ではない旨主張する。

しかしながら、被告のこの主張は、大径粒子の粒度分布の測定法と小径粒子の粒子量の測定法が異なる測定原理に基づくものであり、それぞれの専用装置によって測定されていた本出願前の技術水準を無視するものであって、失当である。なお、被告は、アレイセンサのセンサ素子は外周部ほど粗に配置されセンサ素子の連続性が失われる旨主張するが、これは、大径粒子の散乱光の変動がアレイセンサの外周部においては緩和するので、コスト軽減のために採用されている構成にすぎず、スポット光のみを検出する光センサと同一視することはできない。

そして、本願発明によれば、広範囲の粒度分布をより正確に、かつ高分解能で測定できるが、このように顕著な作用効果は、引用例記載の技術的事項からはとうてい予測し得なかったものであるから、本願発明の進歩性を否定した審決の判断は明らかに誤りである。

第3  請求原因の認否及び被告の主張

請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  論拠bについて

原告は、引用例記載の技術において大径粒子の粒度分布と小径粒子の量を別々に演算しているのは、前者の粒度分布測定法と後者の粒子量測定法が異なる測定理論に基づくことによるのであって、「大径粒子が側方散乱光用の光センサの出力に影響せず、また、特定区間の小径粒子が前方所定角以下の散乱光を検出するアレイセンサの出力に影響しない」からではない旨主張する。

しかしながら、論拠bは、仮に大径粒子が側方散乱光用の光センサの出力にも影響し、また、小径粒子が前方所定角以下の散乱光を検出するアレイセンサの出力にも影響するならば、大径粒子の粒度分布と小径粒子の量を別々に演算することはできないであろうとの認識を示したものにすぎないから、原告の上記主張は当たらない。

2  論拠dについて

原告は、本出願前には「散乱角が小さい範囲」から「散乱角が大きい範囲」に移行する過程の散乱角における散乱光の挙動は明らかにされておらず、かつ、大径粒子と小径粒子とではその散乱光の強度に顕著な差が生ずるから、大径粒子の散乱光と小径粒子の散乱光の両方から影響を受ける散乱角があることは本出願前には当業者においても認識されていなかった旨主張する。

しかしながら、分散飛翔状態の粒子群に含まれている各粒子の粒径は連続的に変化すると考えられる以上、センサ素子の出力に対する影響が特定の散乱角において突如として消滅することはあり得ないから、論拠dは本出願前においても当然に予測し得た事項にすぎない。このことは、本願発明が要旨とする光センサが、側方散乱光あるいは後方散乱光の強度を検出するものに限られず、前方散乱光の強度を検出するものでもよいとされていることから明らかであるし、周知例の第2図及び第6図に記載されているように、粒径が小さくなるに従って「散乱角が大きい範囲」の検出データが必要になることからも理解し得るところである。

3  相違点に係る本願発明の構成の進歩性について

原告は、本願発明は、大径粒子の散乱光が光センサの出力にも影響を与え、小経粒子の散乱光がアレイセンサの出力にも影響を与えることを見出だし、アレイセンサの出力データを連続性を有しないものとみなして光センサの出力データと同等に取り扱うことを着想して創作された旨主張する。

しかしながら、アレイセンサはセンサ素子が連続的に配置されているのに対し、光センサはセンサ素子の連続性を欠くものであるが、アレイセンサの出力データといえども、個々のセンサ素子の出力データに分解されて演算処理されるのであるから、ここにいう連続・非連続は、単にセンサ素子の配置が物理的に密であるか粗であるかの差異にすぎず、粒度分布測定の原理上の差異ではない。のみならず、アレイセンサのセンサ素子は外周部ほど粗に配置され、センサ素子の連続性が失われるから、光センサと本質的な差異はないといえる。

そうすると、論拠dが前記のように本出願前において予測し得た事項である以上、大径粒子と小径粒子の両方から影響を受けるセンサの出力データを統一的な散乱光強度分布ベクトルの成分として用いることは、当業者ならば容易に想到し得た事項にすぎず、本願発明が奏する作用効果も、引用例記載の技術的事項から予測し得た程度のものというべきである。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

第1  請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)、3(審決の理由の要点)、及び、引用例に審決認定の技術的事項が記載されており、本願発明と引用例記載の技術的事項が審決認定の一致点及び相違点を有することは、いずれも当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。

1  成立に争いのない甲第2号証(特許願書添付の明細書)及び第3号証(手続補正書)によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果が次にように記載されていることが認められる(別紙図面A参照)。

(1)技術的課題(目的)

本願発明は、分散飛翔状態の粒子群に光を照射したときに生ずる光散乱現象を利用した、いわゆる光散乱法に基づく粒度分布測定装置、特に、分布が広範囲にわたる粒子群の粒度分布の測定に適した粒度分布測定装置に関するものである(明細書2頁6行ないし10)。

ミーの散乱理論あるいはフラウンホーファの回析理論を用いた粒度分布測定装置として、従来、レンズを用いて被測定粒子群からの散乱光を集光し、アレイセンサの受光面上に散乱像を結ばせ、その出力から散乱光強度分布を得て、これを粒度分布に換算する方式のものが主として実用化されている(明細書2頁12行、13行。手続補正書2枚目5行ないし10行)。

また、被測定粒子群からの散乱光を、互いに所定の角度を空けて配置した光フィアバの端面に入射し、各光ファイバの他端にそれぞれ光センサを設ける方式のものも提案されている(手続補正書2枚目11行ないし15行)。

ところで、汎用的な粒度分布測定装置においては、一般に、サブミクロン~千数百μmに及ぶ非常に広い測定範囲が要求される。実用化機においてアレイセンサを用いた前者の方式が主流を占める理由は、大径粒子の場合、その散乱光が前方の角度の極めて狭い範囲(散乱角0°近傍)において激しく変化するが、アレイセンサならば散乱角0°近傍に相当する部分を非常に細かく分割することができ、この領域における光強度を、高分解能かつ連続的に測定できるからである(手続補正書2枚目16行ないし3枚目7行)。

これに対し、光ファイバを用いた方式では、散乱角0°近傍を上記方式のように細分化することは不可能であり、しかも、光を入射する光ファイバ端面の面積が小さいため、アレイセンサを用いた方式に比してセンサ素子に導く光量を確保できないという問題もある(手続補正書3枚目7行ないし12行)。

このように、特に大径粒子の測定に関してはアレイセンサを用いる方式が有利であるが、アレイセンサは一般にシリコンウエハから製作されるため、その大きさに制約があり、散乱角の測定限界は前方の約40°以下程度になる。一方、小径粒子、特にサブミクロン単位の粒子を測定する場合は、散乱角に依存する散乱光の変化が全体的に緩慢となるので、前方だけでなく、側方及び後方も含む全体的な変化を検出する必要が生ずる(手続補正書3枚目13行ないし4枚目2行)。

そこで、従来、アレイセンサを用いる方式の装置において、広い測定範囲をカバーするため、前方の40°よりも大きな散乱角の散乱光については、別途、1個または複数個の光センサによってその光強度を測定することが実用化されている。その場合、散乱角が大きい範囲の散乱光は光強度が小さいので、光センサを被測定粒子に近付けるとともに、受光面積を大きくすることが一般である(手続補正書4枚目3行ないし13行)。

このようにアレイセンサと光センサを組み合わせると、アレイセンサと光センサとは異種のセンサであるため、各センサ間の特性的ないし空間的な共通性が失われることになる。そこで、従来のこの種の装置においては、アレイセンサによる散乱光強度分布データを粒度分布に換算する一方、光センサによる散乱光強度分布データは別途に粒度分布に換算し、最後に両者を結合することによって被測定粒子群の全体の粒度分布を求めている(手続補正書4枚目14行ないし5枚目5行)。

このように、アレイセンサを用いることにより前方微小角の範囲において大径粒子の散乱光を高分解能で測定し、これと別途に、側方ないし後方用の光センサによりサブミクロン単位の小径粒子を測定することによって広範囲の測定を可能にした従来の装置においては、前方微小角の散乱光の強度分布パターンと、それ以外の前方、側方及び後方散乱光の強度分布パターンとは全く別々に取り扱われているが、それぞれのデータに基づいて求めた粒度分布を後に接続する点の理論的な根拠があいまいであり、正確な粒度分布が得られている保証はない。その結果、従来の粒度分布測定装置では、広範囲の粒度分布を正確に測定することは困難であった(手続補正書5枚目9行ないし14行。明細書3頁6行ないし15行)。

本願発明は、このような従来技術の問題点を解決し、広範囲にわたる粒度分布を正確に測定し得る粒度分布測定装置の提供を目的とするものである(明細書3頁16行ないし18行)。

(2)構成

上記の目的を達成するため、本願発明はその要旨とする構成を採用したものである(明細書1頁5行ないし2頁3行)。

すなわち、本願発明は、粒子群による散乱光のうち前方所定角度以下の散乱光をレンズで集光しアレイセンサによってその強度分布を測定するとともに、粒子群による散乱光のうち上記の角度を越える前方散乱光、側方散乱光及び後方散乱光はアレイセンサとは別個に設けた1個もしくは複数個の光センサによって測定する点は従来技術と同様であるが、アレイセンサ及び光センサの各出力のデジタル変換データを統一的な散乱光強度分布ベクトルの成分として用い、そのデータから、散乱光強度分布ベクトルを粒度分布ベクトルに変換するためのあらかじめ設定されている変換係数行列を用いた演算によって、粒子群の粒度分布を一挙に算出する演算手段を備えたことを特徴とするものである(明細書3頁20行ないし4頁15行)。

粒子にレーザ光等の平行光束を照射すると、空間的に散乱光の強度分布パターンを生ずるが、このパターンは粒子の大きさによって変化するから、種々の粒径の粒子が混在している粒子群に光を照射した場合、粒子群から生ずる光強度分布パターンは、それぞれの粒子からの散乱光の重ね合わせとなる。これをベクトル、行列で表現すると、

γ=Af

(γは光強度分布ベクトル、fは粒度分布ベクトル、Aは粒度分布ベクトルfを光強度分布ベクトルγに変換する係数行列)

となる。実際の計算では、γの成分(要素)は各散乱角においてアレイセンサ及び光センサによって検出される光強度データであるから、アレイセンサによって検出される前方微小角散乱光のデータと、光センサによって検出される前方散乱光、側方散乱光及び後方散乱光のデータを、統一的な光強度分布ベクトルγの要素として取り扱うことに、理論的矛盾はないのである(明細書4頁17行ないし5頁17行)。

(3)作用効果

本願発明によれば、従来のように別々に算出した粒度分布を後に接続する手法に比べて、広範囲の粒度分布をより正確に、かつ高分解能で測定することが可能である(明細書14頁9行ないし18行)。

2  論拠aないしcについて

原告は、審決が相違点に係る本願発明の構成が想到容易であったことの論拠とした論拠aないしdについて、論拠a及びcは(論拠cにおいて周知例を援用している点を除き)誤りではないが、論拠b及びdは誤りである旨主張する。

審決の前記論拠について検討すると、論拠a及びcは粒度分布測定の技術分野においては本出願前の技術常識に属する事項にすぎず(このことは、後に認定する引用例あるいは周知例の記載からも明らかである。)、しかも、その技術内容は、相違点に係る本願発明の構成、すなわち、アレイセンサと光センサの各出力を統一的データとして取り扱うことにより粒子群の粒度分布を一挙に算出するという演算処理の方法論とは、直接何の関係もないものである。

また、論拠bは、「大径粒子の粒度分布と特定区間の小径粒子の量を別々に演算する」理由を述べているにすぎないから、これまた、アレイセンサと光センサの各出力を統一的データとして取り扱うことについて何らかの示唆を与えるものとはいえない。なお、論拠bについて「引用例記載の技術において大径粒子の粒度分布と小径粒子の量を別々に演算しているのは、前者の粒度分布測定法と後者の粒子量測定法が異なる測定理論に基づくことによる」旨の原告の主張は、被告も明らかに争わないところである。

そうすると、相違点に係る本願発明の構成が想到容易であったとする審決の判断の当否は、専ら論拠dの当否、すなわち「前方所定角度を越えても同角度に近い散乱光の強度を検出するセンサの出力は、大径粒子に連続する小径粒子と大径粒子の両方から影響を受けること」が、本出願前に公知であったか否かによると考えられる。

3  論拠dについて

そこで、論拠dが本出願前に公知であったか否かを検討するに、成立に争いのない甲第4号証によれば、引用例は「島津レーザ回析式粒度分布測定装置SALD-1000とその測定例」と題する論稿であって、下記のような記載が存することが認められる(別紙図面B参照)。

〈1〉  「レーザ回析法はフラウンホーファ回析を意味することになるが、SALD-1000ではミー散乱と併用している。具体的には、2μm以上の粒子に対してはフラウンホーファ回析理論を、2μm以下の微粒子に対してはミー散乱理論を適用している。(中略)フラウンホーファ回析はレーザ光のようなコヒーレントな光をその波長より大きな粒子に照射したとき生ずる回析現象で、(中略)波長に近い粒子または波長以下の微粒子に対して、あるいは回析角度の大きな領域に対しては誤差が大きく、適用できない。ミー散乱理論は、散乱現象をマックスウェルの電磁方程式から解いたもので、粒径および散乱角度に対する制限はない。ミーの理論式はかなり複雑で、媒質と粒子との屈折率も必要であるので、フラウンホーファ回析が適用できない領域についてのみ適用している。」(78頁左欄「2.レーザ回析法の原理」の項の1行ないし23行)

〈2〉  別紙「粒度分布の算出」のとおり(78頁右欄「2.3粒度分布の算出」の項の1行ないし79頁左欄の図3の下4行)

〈3〉  「レーザ回析法(散乱法も含む)では、測定範囲は回析光を集光するレンズの焦点距離とデテクタ位置を変えることによって切り替えができる。SALD-1000は、焦点距離が異なる3種類のレンズを内臓している。図5は焦点距離の異なるレンズの回析角とデテクタ上での像高の関係を示したものである。すなわち粒子が大きい場合、回析光強度とその変化は角度の小さい(前方)、狭い範囲で強く、かつ激しい。そこで前方の小角度の部分を拡大してデテクタに映す方が測定精度からみて有利である。そのためには図5(a)のように焦点距離の長いレンズを使用する。粒子が小さくなると角度の大きな光も強くなり、その変化もゆるやかになるので、逆に広角度を圧縮して映す方が有利になり、(b)のように焦点距離の短いレンズを使用する。SALD-1000におけるレンズの測定最大回析角度(いちばん外側の素子に入射する回析光の角度)と測定範囲の関係は表1のとおりである。(中略)デテクタは、前方回析光のためのリングデテクタ、側方散乱光のためのデテクタ、それに透過光測定用のデテクタ、計3種類が内蔵されている。(中略)リングデテクタ(中略)を用いた理由は、(1)可動部がない、(2)回析光の同時測光が可能の点にある。(中略)側方散乱光のデテクタは90°の側方散乱光を2方向で測定する。2方向とは、半導体レーザからレーザ光はもともと直線偏光しており、偏光方向に対し直角方向と平行方向である。90°側方散乱光のデータは、0.55μm~0.25μmの粒子量の計算に使用される。」(79頁右欄「3.1.3レンズとデテクタ」の項の1行ないし80頁右欄1行)

これらの記載によれば、引用例記載の技術は、アレイセンサによって散乱角38°までの範囲において検出した散乱光強度分布から、別紙「粒度分布の算出」の理論積分式(7)を離散化した式(10)を解くことによって径0.55μm~36.1μmの大径粒子の粒度分布を求め、一方、光センサによって検出した90°側方散乱光の強度から、径0.25μm~0.55μmの小径粒子の粒子量を求めるものであって(ただし、光センサによって検出した散乱光強度から小径粒子の粒子量を求める具体的手法は記載されていない。)、引用例には、論拠dにいう「前方所定角度を越えても同角度に近い散乱光の強度を検出するセンサの出力は、大径粒子に連続する小径粒子と大径粒子の両方から影響を受けること」に関する記載も示唆も全く存在しないことが明らかである。

ちなみに、周知例記載の技術内容を検討してみると、成立に争いのない甲第5号証によれば、周知例は名称を「粒径測定装置」とする発明に関するものであって、下記のような記載が存することが認められる(別紙図面C参照)。

〈4〉  「粒径と散乱光強度分布曲線の変化周期との間には第2図および第3図に示す関係がある。したがって、たとえば10μmφ以上の粒径の場合には(中略)特徴ある変化周期が正確に測定できればよく、広い散乱角に亘って散乱光強度分布を測定する必要はない。一方、1.0μmφ以下の粒径の場合には、上述した変化周期よりも広い散乱角の範囲に亘って散乱光強度分布全体の傾きが測定できればよい。」(2頁左下欄4行ないし12行)

〈5〉  「10μmφ、1μmφ、0.5μmφの粒子の散乱光を測定すると第6図に示す散乱光強度分布が測定される。この図から判るように大きい粒子(10μmφ)の場合には、その特徴である低次の回析光(0、1次)の変動の様子を測定することができ、また小さい粒子(0.5、1μmφ)の場合には広い範囲に亘って両者の散乱光強度分布の違い(傾き)を測定できる。したがって、広い粒径範囲に亘って散乱光強度分布の特徴を区別して測定することができる」(2頁右下欄18行ないし3頁左上欄8行)

これらの記載によれば、周知例記載の発明も「散乱角が小さい範囲」における検出データと「散乱角が大きい範囲」における検出データは別途に演算処理することを前機としているものと考えられ、周知例にも、論拠dにいう「前方所定角度を越えても同角度に近い散乱光の強度を検出するセンサの出力は、大径粒子に連続する小径粒子と大径粒子の両方から影響を受けること」に関する記載も示唆も存在しないといわざるを得ない。

そして、ほかに論拠dが本出願前に公知であったと認めるに足りる証拠はない。したがって、論拠dから直ちに、アレイセンサの出力と光センサの出力を統一的なデータとして取り扱うことにより粒子群の粒度分布を一挙に算出するという演算処理の方法論に想到し得たか否かを論ずるまでもなく、実質的には論拠dのみによって相違点に係る本願発明の構成が想到容易であったとする審決の認定判断は、正当な理由付けを欠くものであって、誤りというべきである。

4  この点について、被告は、分散飛翔状態の粒子群に含まれている各粒子の粒径は連続的に変化すると考えられる以上、センサ素子の出力に対する影響が特定の散乱角において突如として消滅することはあり得ないから、論拠dは本出願前においても当然に予測し得た事項にすぎない旨主張する。

確かに、分散飛翔状態の粒子群に含まれている各粒子の粒径は連続的に変化し、したがって、センサ素子の出力に対する影響が特定の散乱角において突如として消滅することはあり得ないという認識自体は、客観的には正しいと考えられる。

しかしながら、本出願前の技術水準は、前記のとおり、「散乱角の小さい範囲」におけるアレイセンサの出力と「散乱角の大きい範囲」における光センサの出力とを別途のデータとして演算処理し粒度分布を算出することに尽きるのであって、両出力を統一的なデータとして取り扱う必要性があると考えられていたことを認めるに足りる証拠は存しない。したがって、前記認識は、本願発明に接することによって初めて得られたものというべきであるから、被告の前記主張は当たらない。

また、被告は、アレイセンサはセンサ素子が連続的に配置されているのに対し、光センサはセンサ素子の連続性を欠くものであるが、ここにいう連続・非連続は単にセンサ素子の配置が物理的に密であるか粗であるかの差異にすぎず、粒度分布測定の原理上の差異ではないと主張する。

しかしながら、アレイセンサが、レンズによって集光した散乱光の連続的な光強度分布を検出するものであるのに対し、光センサは、あくまでスポット光の光強度を検出するものにすぎない。したがって、両者は、単にセンサ素子の配置が物理的に密であるか粗であるかの点においてのみならず、粒度分布測定の原理において相違するものと考えるのが相当であるから、被告の上記主張も当たらない。

5  以上のとおりであって、審決認定の相違点に係る本願発明の構成は、引用例記載の技術から容易に想到し得たものということはできない。そして、本願発明は、この構成に基づいて変換係数行列によって一挙に粒度分布を測定し、前記1(3)のとおり、従来のように別々に算出した粒度分布を後に接続する手法に比べて、広範囲の粒度分布をより正確に、かっ高分解能で測定することができるという作用効果を奏するものであって、このような作用効果は、当業者において引用例記載の技術及び周知例記載の発明からは予測することができなかったものと認められる。

したがって、本願発明は引用例記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断には、その結論に影響を及ぼす誤りがあるから、審決は違法として取消しを免れない。

第3  よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 山田知司)

別紙図面A

〈省略〉

1……レーザ光源

2……フローセル

3……懸濁液

4……レンズ

5……リングデテクタ

6、7、8……光センサ

9……プリアンプ

13……演算部

別紙図面B

〈省略〉

〈省略〉

別紙図面C

〈省略〉

〈省略〉

別紙

粒度分布の算出

回折光(正確には散乱光も含むべきであるが、以下単に回折光と呼ぶことにする)と粒度分布との関係は、(7)式で表わされる。

〈省略〉

l(φ):回折光の強度分布

f(D):粒度分布関数

ここで、K(φ、D)は上述のフラウンホーファおよびミーの式から理論的に計算される単位粒子量当りの回折光強度である。

いま、SALD-1000は回折光強度の測定にリング状の検出器(図2)を使用しており、その大きさを、内半径をr1、外半径をr2とし、フラウンホーファ回折を適用するとしたとき、そのリング状検出器に入射する粒子単位体積当りの光強度K(φ、D)は(1)式を積分して(8)式で表わされる。

K(φ、D)=k2(J02r1+J12r1-J12)/D (8)

ここで、

k2:定数

J0rn=J0(πDsinφrn/λ)

J1rn=J1(πDsinφrn/λ)

φrn:rnに入射する光の回折角度

ミー散乱の場合は、フラウンホーファのように、式のうえで積分することはできないので、粒径をパラメータにしてリングに入射する光量を数値積分してK(φ、D)を算出する。

一方、粒度分布の範囲を有限とし、この範囲内をn分割し、それの分割区間内は一つの粒子径で代表されるものとし、光の強度分布もリングデテクタからm個の値で与えられろとすると、(7)式は(9)式のように近似できる。

〈省略〉

(9)式は線形であるので、ベクトル、行列で表わして、

l=Af (10)

fについて解いて、

f=(A'A)AA'l (11)

ここで、AはK(φi、Dj)による係数行列、A'は転置行列、( )-1は逆行列である。

(11)式によって光強度分布l(各素子への入射光量)から、粒度分布fを求めることができる。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例